2011年12月7日水曜日

6か月目の意思決定

グーグルを退職してから半年が経った。初の著書の執筆活動や外部講演などに挑戦しているこの半年間、本当に色々なことを考えた。会社組織という安全地帯を離れ、起業して、はじめて見えたことがたくさんある。社会が作ったレールを外れた所に本当の自分を発見する機会が転がっていると自分の本にも書いたがその通りだと実感した。

グーグル時代の同僚が「ブランドのある会社ってかっこいいジャケットのようなものだ」と言っていたが、自分でそのジャケットを脱いでみたら、その下に何があるのかが良く分かった。なぜなら、何が組織の力で、何が自分の実力なのか、ごまかすことはできなくなったから。

そのような自分を見つめる日々を通じて強く感じたのは、自分が人材マネジメントの世界で約10年間体系的に学び、実践でもがいて得た2つの分野(リーダーシップとマネジメント)の知識と経験を全て吐き出すことで自分の器を空っぽにしたい、そして、それを人に役立ててもらいたいということ。さらに、また新たな分野を開拓し、個人としての成長を続けたい。そこで、私は2つの意思決定をした。1つは、「リーダーシップ」とある意味夫婦関係にある「マネジメント」の本を執筆し、出版すること。2つは、まだ日本ではその重要性があまり認識されていない組織開発を体系的に学びはじめること。

結局、私は学ぶこと、そして学んだことを人と共有することが大好きなのだ。

2011年10月14日金曜日

11月の講演予定

113日(木)キャリアビジョンType
115日(土)名古屋商科大学 MBA
1125日(金)東京理科大学
1129日(火)学習院大学

学生の皆様にお会いできるのがとても楽しみです!

2011年10月2日日曜日

ピーター・キャペリ教授の講演を聴いて

ピーター・キャペリ教授の日本での特別講演「不確実な時代の人材戦略」を聴きにいった。キャペリ教授は、私の母校コーネル大学の大先輩、しかもグーグル時代の私の上司はWharton Business Schoolでキャペリ教授と一緒に働いていた。もちろん、「雇用の未来」「ジャスト・イン・タイムの人材戦略」の著者としてしても有名だ。世界は自分が考えているより狭いと感じた。

キャペリ教授が言いたいことは、物的資源を管理するSCMと同じ位の真剣さと数値管理が人的資源の調達・管理(タレント・マネジメント)にも求められるべきではないかということだと思う。

企業は人的資源を確保するときに、「Buy=外部採用」「Make=社内開発」という2つ選択肢がある。キャペリ教授によると、アメリカ企業も現在の日本企業と同じように、外部環境が比較的安定していた1950年代~60年代までは「Make」型の人材マネジメントだったそうだ。しかし、1970年代から環境変化が激しくなり(これは日本企業の世界市場での台頭が関係している)、「Make」をやめ、「Buy」がスタンダードになっていったとのこと。そして現在、「Make」型のアメリカ企業はGEIBMなどごく少数になってしまっていると指摘していた。

言い換えると、じっくり人を育てるGEIBM式の人材マネジメントは不確実な時代には適合しておらず、ジャスト・イン・タイム式人材マネジメントという選択肢の方が有効なのではないかということのようだ。これは、企業が必要な質と量の人材を必要な時に採用し、必要がなければ解雇するというモデルなのだ。このモデルが動く前提条件として労働市場の流動性が必要だ。もちろん、このジャスト・イン・タイム式人材マネジメントは、トヨタ自動車がフォード自動車を凌駕したトヨタ生産方式のコンセプトの一部を人材マネジメントの世界に応用したものだ。

今後の企業はどう対処していけば良いのだろう?キャペリ教授によると、これからの企業は意識的に「Make」と「Buy」をどうバランスさせるかを判断していくことが重要らしい。

現在の日本の多くの企業を考えた場合、基本は新卒一括採用そして社内育成が中心で「Buy」の存在感はとても小さい。しかし、グローバルで競争を視野に入れると、「Make」のみを中心に組織を運営することは不可能だ。特にインドや中国は離職率が非常に高く、人が辞めることを前提に組織を作っていかなければならない。また、日本も今後労働市場の更なる流動化が予想されるわけだから、「Buy」という選択肢を最初から排除するのは適切ではないだろう。日本企業の良さを残しつつ、「Buy」をどううまく組み込んでいくのかが問われているのかもしれない、と講演を聴いていて感じた。

2011年9月30日金曜日

11月3日(木)キャリアビジョンtype新卒向けイベントのお知らせ

グローバルキャリアを目指す学生たちに刺激を与えたいと思います。

テーマ:世界市場で勝負するグローバル・キャリアの創り方
開催日時:2011113日(木)16:1517:15
開催場所:ベルサール渋谷ファースト B1 HALL
パネリスト:P&G、PWC、UBSの若手社員

詳細は下記をご覧ください。

理論と実践

最近、外部講演やその後の交流会を通して、日本企業の人事の方や現場の人と会話する機会が増えて確信したことがある。それは、人材開発や組織開発の手法を知らないことで大変な苦労をしている個人やチームがとても多いということ。

体の具合が悪いのは分かっているのだけど、医者が正しい処方箋をくれないのか、そもそも医者にかからずに自分で治そうとしているのか。これだけ多くのコンサルティング・研修会社が存在し、たくさんのビジネス本が出版され、ネットの時代になって、なぜなのか理解に苦しむ。理由を想像してみると、日本の研修がいわゆるお勉強になっている(頭と体を使ってはじめて実践知になるのだが)もしくは人事の役割・専門性の問題などが考えられるが、、、理由ははっきりしない。

ジョン万次郎は、日本人としてはじめてアメリカで蒸気機関車に乗った。日本に帰国して、機関車を説明するのに、下手な絵を描いて説明したが全く伝われなかった、という逸話が残っている。人は経験したことしか本当の意味で理解できない。私も言葉や図で人材開発・組織開発の手法を伝えるが、伝えきれない。やはり体感してもらうしかないのだろう。私がやるべきことが見えてきた。

2011年9月27日火曜日

9月26日(月)人材マネジメント協会でのセミナー終了

9月26日(月)の人材マネジメント協会主催のセミナーが無事終了しました。
約40名の人が参加し、質疑応答の時間には途切れることなく
質問がどんどん出たので嬉しかったです。

やはり、優秀な参加者からの鋭い質問は、「自分が何を知っていて、何を知らないか」を
私自身に突き付けてくるので緊張しますが、とても勉強になりました。
次は10月13日(木)のCHO協会でのセミナー!今からとても楽しみです。


2011年9月8日木曜日

起業日記

気がつくと、このBlogはグーグルを退職してから今までの経緯を説明するささやかな起業日記になっていた。グーグルを辞めた理由国民年金への切り替えのために市役所に行った時に感じた違和感起業をして得たもの、失ったもの、大学院時代の先輩が誘ってくれたことで実現した初めての大学での講演理想と現実の間での悩み、そして9月からはいよいよ講演や研修講師の仕事が本格的に稼働する。主な研修(コンサルティング)領域は、グローバル・リーダー育成、イノベーション、そして組織活性化だ。

1人で車輪を回し始めた時は、重たくてなかなか動いてくれなかった。でも、気がつくと周りで一緒に車輪を回してくれている仲間がいた。車輪は確実に回転しだしている。これからどこまでいけるかがとても楽しみだ。

2011年9月2日金曜日

10月13日(木)CHO協会にてセミナー開催のお知らせ

CHO協会にてセミナーを開催します。

テーマ:グローバル・リーダーシップの磨き方
~時代の転換期に求められるリーダーシップについて~
開催日時:20111013日(木)18001930(会場 17:30~)
会場:パソナグループ 地下1Cルーム

詳細は下記のリンクをごらんください。
https://www.j-cho.com/seminar/form/?id=174


後談)無事セミナーが終了しました。ディスカッションがとても盛り上がりました。
毎回感じますが、参加者は優秀な方ばかりで、勉強になります。

2011年8月23日火曜日

タイムマシン経営とグローバル化

今週の東洋経済が「10年後に食える仕事、食えない仕事」という特集を組んでいた。この特集を見ていて、ソフトバンクの孫正義氏のタイムマシン経営(アメリカの最先端事例を日本に持って来れば、何年か遅れて日本でも成功する)がまだ機能しているのでは?と思った。なぜなら、この記事は私が10年前アメリカの大学院に留学していた時に読んでいたビジネス・ウィークやフォーチュンの記事で議論されていた内容そっくりだからだ。

私は企業のグローバル化を考える時、10年スパンで物事を考えることが大事だと感じている。つまり、10年前のアメリカ企業の動向を見れば、次の10年で日本がどう動くかが想像できるし、今のアメリカ企業の動向を見れば、20年後の日本そして日本企業がどうなるかがある程度予想がつく。それは、良い悪いかは別として、アメリカが新しいビジネス手法で世界経済をリードし続けているからだろう。

今から11年前の2000年、米フォーチュン誌の「最も称賛される企業」ランキングで圧倒的な1位だったのは、そのグローバル戦略とマネジメント手法が評価されたGEだった。当時、私はコーネル大学大学院で人材マネジメントを学んでおり、同校の多くの卒業生はGEでの就職を希望した。当時のGEは、買収した会社をシックスシグマやリーダーシップ育成などのGE流のマネジメント手法で改善し、必要とあれば売却するというM&A戦略で成功を収めていた。オペレーショナル・エクセレンスを追及すれば、利益があがる時代だったのだと思う。

そんなGEが自社のビジネスプロセスの効率化を更に進める為に、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスに参入していったのはある意味必然だったと思う。BPOをまずインドで開始し、そして中国、東欧へと展開していく。そして、2001911日に同時多発テロ時間がアメリカで勃発し、その結果アメリカ経済は深刻な不況に陥っていった。しかし、製造業を中心に業績不振が続く中、アップルやグーグルなどのシリコンバレーIT企業は急成長を遂げていった。いわゆる産業構造の転換が起きた。

アメリカ企業は人件費とオペレーション・コストのボトムラインの削減と新興市場での成長機会を求めて、グローバル化へと一気に舵をきった。この流れを受けて、GEは他社にもBPOサービスを提供していく。中国市場の急成長とこのグローバル化の波を体感したく、コーネル大学院卒業後は、GEジャパンではなく、GEチャイナのBPO部門に人事として就職した。ここで中国人との共同作業、中国人部下のマネジメントという貴重な経験を得た。その後2004年に、GEのBPO部門をスピンアウトさせる目的で、投資ファンドの資本を受け入れたタイミングで、GEジャパンに異動した。

私は、その後、グローバルコインの裏側、つまりイノベーションを体感したく、2006年にグーグルに転職した。そこで私が見たのは知識労働者が中心の組織をグローバル化し、イノベーションにつなげる方法だった。それは、プロセス改善とは対極の世界だった。そして同時多発テロから10年が経過した2011年。

2011年の「最も称賛される企業」のトップ10内にGEの姿はなく、代わりにアップルとグーグルといったシリコンバレーのイノベーション企業が1位、2位を占めた。この10年で、オペレーショナル・エクセレンスからイノベーションへ時代がシフトしたのだ。

では、アメリカがたどった過去10年から日本の今後を予測してみよう。2011年の震災後から2015年まで、製造拠点の海外移転とBPOを中心とした企業のコスト削減努力が一層すすむ。そして、2015年あたりからイノベーションに卓越した企業が成長を始め、2020年にはイノベーションが日本企業の最重要課題になる。予測がどの程度当たるかは10年後ではないと分からないが 笑)

このような状況の中、個人が生き残っていくにはどうすれば良いだろう? 私は、「英語」、「MBA」そして「リーダーシップ」というグローバル時代の3種の神器を身につけなければいけなくなると思う。この3つは全てグローバルビジネスの共通言語だ。この3つがあれば、この荒波を乗り切り、グローバル社会で活躍できると思う。

2011年8月20日土曜日

価値観の明確化

強い企業はビジョンと価値観がはっきりしていることが多い。たとえば、ジム・コリンズとジェリー・ポラスの著書「ビジョナリーカンパニー」に登場しているような企業、GEやディズニーなどを想像すると、それぞれどんな会社で何をしようとしているのかがわかる。そして、その独自なビジョンや価値観に惹かれて、多くの人が入社を希望し、入社した後はビジョンの実現に向け努力する。

個人も同じだと思う。自分のビジョンと価値観を明確化させることで、同志が集まり、ビジョン達成に協力してくれるのではないだろうか。グローバル企業のリーダーシップ研修でも、この作業に最も多くの時間を割く。

私も独立を機に、今一度自分の価値観の明確化を試みた。39年間生きてきて、何を大事にしてきたのか、これから何を大切にしていきたいのかを言語化したら、下記のようになった。名付けてSuzuki バリュー :) 


Open, Fair, Cool, Appreciation

1:Status(地位・学歴・職歴・人種など)は関係ない
一人一人と一個人として対等に付き合う。

2:来るもの拒まず

3:人を否定しない
意見の対立はOKだが、自我をむき出しにして相手を批難しない。

4:思い込みを捨てる
迷ったら、行動してみて考える。

5:カッコつけない
かっこいい人にはなりたいが、かっこつけている人は格好よくない。

6:感謝の気持ちを常に持つ

ビジョンや価値観は自分の内面から滲み出てきたもの、つまり自分が本当に信じているものでなければ意味がないと言われる。果たして自分はこの価値観をどこまで体現できているだろうか?

皆さんもビジョンや価値観を明確化する作業を行ってもらいたい。ビジョンや価値観は状況が変わった時は修正して構わない。今、感じていることを素直に表現してみて欲しい。

2011年8月15日月曜日

権力を握る人の法則(書評)

私が尊敬するアメリカの人材マネジメントの学者のひとり、ジェフリー・フェファーが「権力を握る人の法則」という本を書いた。この本を読んで、正直驚いた。彼の「隠れた人材価値」や「人材を生かす企業」をイメージしていた私にとって、この本はポップス歌手がいきなりハードロックを歌いだすような衝撃があった。

フェファー教授は西海岸のスタンフォード大学のMBAで教えており、継続的に高い業績をあげる企業の仕組みには普遍性があるというハイパフォーマンス・ワークシステムの提唱者として有名だ。ハイパフォーマンス・ワークシステムは、シリコンバレーの文化に影響を受けてか、性善説に基づく人材マネジメント(成果主義バリバリというより、信頼をベースにし、人材の能力を最大限に生かすにはどうすれば良いかという発想)の印象が強い。グレートプレイストゥワークのリストの上位に入ってくるような企業をイメージしてもらえれば分かりやすい。

一方の戦略人事はもっとマキュベリチックな現実主義で、コーネル大学などの東海岸の大学が中心になって研究している。東海岸にはGEIBMなどの歴史が長い伝統的な企業が多いので、学者の研究対象もそのような企業が中心になる。こちらは、フォーチュンの最も称賛される企業リストの上位にランクしているような企業をイメージしてもらいたい。

さて、ハードロック歌手としてのフェファー教授の評価はいかに?教授の膨大なリサーチを基に実務家にすぐ役立つ内容を提供する姿勢は全く変わっていない。相変わらずとても実践的で素晴らしい。ハードロック歌手としても十分合格だ。

この本でのフェファー教授の主張は、仕事ができて人格的に優れていても、政治的にうまく立ち回れないと組織では成功できないとのこと。そのためには、人より目立つこと(出る杭になる)、役立つ人脈を構築すること、人を褒めること、周りからの評判を良くするためのイメージ作りなどが必要としている。

確かに、組織にいると、「この人は出世する」と思った人ではなく、「え?あの人が?」というような人が出世街道にのることはある。強い企業はタレント・マネジメントがしっかりしているので、これが少ない気もするのだが。。出世するには、人格を磨くことの他に、組織内のポリティクスをうまく処理できるようにならなければいけないのだと改めて感じた。

2011年8月2日火曜日

9月26日(月)人材マネジメント協会にてセミナー開催のお知らせ

926日(月)に人材マネジメント協会主催のHR Cafeで講演します。
グローバルに通用するリーダーシップの型とその身につけ方
を自身のグローバル企業での経験を交えてご紹介します。

テーマ:グローバル・リーダーシップの磨き方(仮題)
開催日時:2011926()18452045
会場:日本生産性本部 生産性ビル セミナー室(JR渋谷駅徒歩7分、渋谷区渋谷3-1-1

http://www.jshrm.org/event_2645.html

2011年7月31日日曜日

ユニクロとニューヨーク

私は、昔からリテールビジネスに興味があり、新しいショッピングセンターや話題のお店ができると必ず見に行きたくなる。店舗には、客と商品と社員、つまりビジネス全ての要素が凝縮されているので、ビジネスの本質を理解し、楽しむには最適な場所だと思う。

お台場にビーナスフォートができた時も真っ先に行ったし、IKEA船橋店にはオープンする前に店の中を見学させてもらった。そんな経験を重ねていると、成功する店と失敗する店が自然に見分けられるようになってくるから不思議だ。

私が見ているポイントを幾つかあげてみる。店員の顔が活き活きしているか、商品の種類、品質、そして価格は他の店と比べてどうか(付加価値を出せているか)、客数と店員の数の割合、そして見客と実際にレジで買っている客の割合はどの程度かなど。これらをチェックするだけで、多くの情報が得られるから面白い。そして、数か月後にまた同じお店を訪問すると、だいたい自分が予想した通りの結果になっている。「この店は潰れるだろうな」と思うお店は、やはり潰れてしまう。「いけるな」と思えば、やはりいけることが多い。それは、他社の状況は冷静に分析できるが、自社の状況を客観的に判断するのはとても難しいということと同じなのかもしれない。

私は今世界で一番頑張っている日本の小売業はユニクロだと思う。世界レベルの強豪ぞろいのカジュアルファッション業界で、山口出身の日本企業がグローバルに果敢に打って出る姿勢に爽快感を感じる。グーグルの人材開発マネージャーとしてアジア太平洋地域を飛び回っていた時は、ソウル、上海、シンガポールと出張に行くたびに、現地のユニクロの店を訪問していた。私の分析でも、現地の人と話を聞いてみても、ユニクロがアジアで成功しているのは明らかだった。

しかし、ニューヨークではどうだろうか?ニューヨークは、ギャップ、Old Navy、ラルフローレンなどのアメリカ企業だけでなく、ZaraH&Mなどのヨーロッパ系企業などの手強い競合がしのぎを削るファッション業界最先端の地だ。上海やソウルとは格が違う。ユニクロは果たしてここで勝てるのか?アメリカ人の知人と昨年の11月に、ニューヨークでディナーを共にするまで、私はユニクロがニューヨークで成功するのはなかなか難しいと思っていた。

彼は生粋のニューヨーカーで、名門コロンビア大学の医学部生。私たちは午後6時半に私が滞在するホテルで待ち合わせた。そして、私たちは、そのホテルから数ブロック歩き、お目当てのタイ料理店に到着した。店に到着して数分後、ウエイターは私たちを2人掛けのテーブル席に案内し、私たちは着席した。そして、彼は紺のジャケットを脱いだのだが、その下にカラフルなシャツを着ていた。彼はそのシャツを指しながら、こう言った。「This is UNIQLO, Made in Japan」。私はその瞬間、ユニクロのニューヨークでの成功を確信した。そして、スケジュール的にはとても厳しいが、次の日の早朝にユニクロの店舗を見学することを決めた。

翌朝6時半、私は地下鉄を乗り継ぎ、ソーホー地区にあるユニクロの店を目指した。まだ薄暗いソーホー地区をひとりで歩きながら、昨日のディナーのことを考えていた。そして、H&MZaraなどの店の前を通過し、お目当てのユニクロの店に到着した。まだオープン前なので店の中には入ることはできなかったが、社員らしき人が荷物をトラックからお店の中に搬入する姿を見ることができた。店の中を覗くと、お馴染みのユニクロがそこにあった。ふと見上げると、日の丸が冷たいニューヨークの風になびいていた。まだまだ日本は世界で戦える。そして自分も日本のために何かしたい。何かできる。そう思った。

2011年7月27日水曜日

理想と現実の狭間で悩む日々

自分が提供したい価値と日本社会が求めているものがミスマッチしていると感じることがある。私が提供したいのは、何をやるか、なぜそれをやるか、つまりWhat Why。しかし企業から求められているのは、どうやってやるか、Howのことが多い。WhatWhyをしっかり議論すれば、自然にHowは導きだすことができるのにと思う。それが戦略人事だろう。成果主義やワークライフバランス等の制度もWhatWhyの議論をせずに導入したことで失敗したではないか。

また今はどうやるかではなく、なぜやるかが大事な時代。マネジメントからリーダーシップへ、戦術から戦略へ、改善からイノベーションへの転換が必要なのだ。私は自分なりのやり方(決して独りよがりにならずに)で壁に穴を開けてみたい。そうでなければ、グーグルを辞めて独立した意味がなくなってしまう。しかし、同時に社会が欲しがらない商品を作る意味があるのかとも思う。理想と現実の狭間で悩む日々。何の仕事でも、この理想と現実のバランスをしっかり取ることができれば素晴らしいのだと思う。


後談:新しいことを始めると勝手が分からないので、右にいったり、左にいったりとブレが生じるようです。徐々にそのブレ幅が少なくなった時には、方向性がはっきりするのだと思う。ある程度の試行錯誤は必要なのでしょう。GEの先輩に紹介された小杉俊哉氏の著書を読んだ。なんと私と同じ39歳の時に独立されている。また、今話題の「パンツを脱ぐ勇気」の児玉氏も私と同じ年。39歳というタイミングは何かあるのかもしれないと思います。

2011年7月17日日曜日

インドで戦えますか?

日本人は研修や国際会議に参加しても発言をしない。これは世界の常識だ。私も研修・セミナー講師として、そんな経験を今まで重ねてきた。私が何度も質問を投げかけても、多くの日本人参加者は黙っていることが多い。この状況をいかに崩して双方向型(参加型)にするかが講師の腕の見せ所なのだが、セミナーの時間が短い場合などは、仕方なく講義形式で話を進めていくしかないことも多い。そして、セミナー終了後、「今日のセミナーは盛り上がらなかったな」と一瞬心理的に落ち込む。しかし、参加者のフィードバックを見ていつも驚く、なぜなら非常に良い評価で、鋭い意見や指摘が満載なのだから。「日本人は自分の考えていることをもっと素直に発言すれば良いのに」といつも思う。そのせいで、日本人は明らかに国際社会で損をしているのだから。

一方、今でも忘れられないのがGoogleインドでの経験。約1年半前に、私にとって初めてのインドでのリーダーシップ研修のファシリテーションを行った。私は、研修当日の朝、ドキドキしながら約30人のインド人参加者の前に講師として立っていた。男女約半々、カラフルなインドの民族衣装を着ている参加者もいれば、T-shirt・短パン姿の人もいる。「いやー、なんでインドでの研修講師引き受けたんだろう。無謀だよ」と一瞬思ったが、もう逃げ出すことはできない。

私は簡単な自己紹介をすませて、研修をスタートさせた。 そして研修開始5分後、私は参加者の意見を聞いてみようと、What do you think?(どう思いますか?)と全員に向けて質問を投げかけた。その直後、私は自分の目を疑った。一斉に多くの参加者の手が上がり、早口のインド訛りの英語で意見を話し始めた。1人の参加者の話が途切れた0.5秒の隙間に、別の参加者が話し始める。そして、勝手に周りとディスカッションをはじめる人達も出てきた。私の存在はそこにはない。私はあせった。「カオスだ。もうお手上げだ」。時間はどんどん過ぎていく。研修の目的からどんどん外れた方向にディスカッションが進んでいく。「もう降参するしかない」と恐れに支配されそうになった。

しかし、もう一人の心の中の自分が話しかけてきた。「ここであきらめる訳にはいかないだろ。勇気を出せよ」そして、ここは関西ジョーク?を一発飛ばしてやれと思った。もうどうにでもなれ。「みなさん!日本では私が質問を参加者に投げかけたら、シーンとして誰も答えないけど、インドは真逆ですね。凄いディスカッションだ。もしかしたら、ファシリテーターの私いらないかも??」と茶目っ気たっぷりに言った。すると、どっと大きな笑いがおきた。まずは、参加者の意識を自分に向けさせることに成功したのだ。そして、私は日本の柔道選手のように一気に「一本」を狙いにいった。

「国際会議の議長として成功するには、発言しない日本人にいかに発言させ、発言し過ぎるインド人の発言を管理する力が求められると良く言われているが、まさに今の私に求められていることだと思う」私は、参加者全員の頭の中のランプに灯りがともり、「なるほど!」と感心しているのが分かった。「一本」!心の中の審判が叫んだ。

まずは笑いをとり、そして日本とインドという国を世界の視点から真面目に対比させることで、私の講師としての信頼が一気に増したのだった。つまり、He Knows what he is talking about(この講師は物事を良く理解している)と参加者が感じたのだ。それ以降は、研修参加者は私の意見に耳をしっかり傾けるようになり、この研修は大成功に終わった。やはり、恐れに支配されそうになった時に、諦めずポジティブなエネルギー(笑い)の力を信じて前に進むことが大事なのだと思う。

2011年7月15日金曜日

中央大学での講演

本日、中央大学商学部の平澤先生の経営組織論の授業で「これからのリーダーシップ」について200名~250名ぐらいの学部生の前で講演した。中央大学の学生さんは私の講演にとても熱心に耳を傾けてくれた。

平澤さんはコーネル大学院時代の先輩で、一緒に机を並べて「リーダーシップ」や「戦略人事」を勉強した仲だ。当時、平澤さんは企業派遣生、私は私費留学生だった。時が経つのは早いもので、それから10年が経過し、平澤さんは中央大学の先生になり、私は人事の実務家・コンサルタントとなった。日本の若者(自分もまだ十分若いと感じているが)がリーダーシップを発揮して、日本を引っ張っていって欲しいと思っているので、今後様々な機会を通して、学生にリーダーシップの重要性を語っていく予定だ。その記念すべき第一回目が平澤先生の授業だったのはとても嬉しかった。

2011年7月9日土曜日

HR ビジネスパートナー


私は3か月に1回ほど、人事の実務家や研究者の皆さんと一緒に勉強会をやっているのだが、その中で人事ビジネスパートナーの考えがまだまだ日本企業に浸透していないのではという議論になった。まだまだ日本はオペレーション人事しか存在していないのでは?と。多くの外資系企業では現在、人事ジェネラリストのことをHRBP(HRビジネスパートナー)と呼ぶ。もともとは、このHRビジネスパートナーは戦略人事の考えから生まれた言葉だ。そもそも戦略人事とは何だろうか?

私が学んだコーネル大学大学院は戦略人事の学校として世界的に有名だった。戦略人事の概念自体はとてもシンプルで、事業戦略と人材マネジメントを連動させることで競争優位を目指しましょうという考えだ。たとえば、イノベーション(差別化戦略)を目指すIT企業とコスト圧縮戦略を掲げている流通企業で、人材マネジメントのやり方が同じであってはおかしい。差別化戦略であれば、優秀な人材の厳選採用、豊富な教育機会、充実した福利厚生などが考えられる。一方、コスト戦略であれば、パート社員などの大量採用、限定的な教育機会・キャリアパス、必要最低限の福利厚生などになるだろう。

つまり、戦略をはっきりさせて、それに人材マネジメントを連動させましょう。そして、各機能(採用、教育、評価、報償)間の整合性も保つようにしようということだ。人事部長はビジネスパートナーとして社長や事業部長の右腕として戦略人事を実施することで、事業戦略の達成を人的側面からサポートするのだ。

この考えを日本で手っ取り早く学ぶにはデイビッド ウルリッチ1990年代の後半に書いた「MBAの人材戦略を読むと良い。彼はGEShellなどの人事最先端企業の人事部長から丁寧にヒアリングをかさね、人事の機能を4つに分けることに成功した。P&Gの人事はこのウルリッチモデルを忠実に実施し、業績を上げている。P&Gの人材マネジメントに興味がある方はこちら

その4つの人事機能とは
1)ビジネスパートナー 2)チェンジエージェント 3)人材管理エキスパート 4)社員チャンピオン 

3)4)が従来のオペレーション人事。そして、ウルリッチは人事がより戦略的になり、ビジネスパートナーとチェンジエージェントの役割をこなせるようになることで企業業績に貢献すべきだと指摘した。外資系企業の人事で(少なくても名前だけは)浸透したHRビジネスパートナー。皆さんの会社ではいかがだろうか?そして、皆さんはHRビジネスパートナーの役割をこなせているだろうか?

2011年7月6日水曜日

起業して得たもの、失ったもの

会社を辞めてから1か月が経った。自分を振り返る良い機会なので、少し自分の考えを整理してみたい。起業するのは、会社で働いていた時に何枚も重ね着していた服を一枚、一枚脱いでいき、裸の自分になるような感じである。一生に一度しかできない貴重な経験だ。自己成長するには、今までと違った経験をすると良いと良く言われるが、本当だと実感する毎日。

まずは得たもの

1)自由と責任。いつ仕事を初めて、終わらせるかは全て自分次第になった。逆に言えば、自分が動かなければ、何も動かない。究極の自立だ。
2)嬉しさと誇り。銀行で自分のコンサルティング事務所の口座を開設した際、はじめて銀行の窓口の人が「鈴木コンサルティング様」と呼んでくれたときに感じた嬉しさと誇り。この不思議な経験をしただけでも起業したかいがあった。起業家の端くれになった瞬間だ。
3)人とのつながり。会社を辞めてから本当にたくさんの人が自分を助けてくれている。もし会社に属したままだったら、その有難さに気付かなかったかもしれないと思うとぞっとする。
4)自分の強みと弱みの再認識。会社を辞めた後(会社ブランドを取っ払った後)、自分には何が残っているのかがはっきりする、その自分の強みを生かして前進するしかない。

失ったもの

1)会社のブランド(名刺)。会社を辞めると名刺作成や営業活動など全てを自分でやらなければいけない。自己紹介する際、昔は会社名を言えば事足りだが、今は一から全て説明する必要がある。
2)チーム。先日、某雑誌の編集部・営業部の皆様とブレーンストーミングしていて思い出したのが、チームで物事を動かしていく楽しさ。そう感じた直後、元部下(韓国人)、上司と同僚(インド人)が来週日本に来るのでディナーはどうかとメールでの誘いが届いた。タイミングとは実に不思議なものだ。

私も会社で働いていた時、下記の質問を考えながら仕事をしたら、もっと良い仕事ができたと思う。皆さんも考えてみて欲しい。

「もし明日今働いている会社を辞めたら、自分には何が残るのか?会社は何を失うか?」
「会社のリソース(ブランド、人的・物的リソース等)を十分活かしきって仕事をしているか?活かしきれていないとしたら、なぜか?」

2011年7月4日月曜日

3度目の開国

新技術が世界を変えていく。それはいつの時代も同じだ。幕末、日本を世界の視点で見るのに最適な場所は蒸気機関が発明されたイギリスとその影響をもろに受けてアジア最大級の租界になった中国 上海だった。蒸気機関という新技術が蒸気船(黒船)を産み、西欧列強のアジア植民地政策へとつながっていった。幕末の志士、高杉晋作そしておそらく坂本竜馬も上海を訪問し、その後、開国派として明治維新実現に奔走した。

戦後まだ物不足に苦しんでいた日本。電力の供給もままならず停電ばかりだった日本。松下電器創業者の松下幸之助やトヨタ生産方式を作り上げた大野耐一はアメリカを訪問し、大量生産方式という技術とその技術が作り出した豊かな消費文化を見て、驚いた。そして、日本復興のビジョンを描き、実現していった。

そして現在、世界の視点で日本を見るのに最適な場所はどこだろうか?それは、情報技術革命の中心地 シリコンバレーとその技術の恩恵を受けて急速に発展しているインドだ。中国は?という人もいるだろうが、中国は大量生産方式という旧テクノロジーが中心なので、製造業からの産業構造の転換が必要な日本には近すぎる存在だと思う。ぜひ、グローバルリーダーを志す人はシリコンバレーとインドを訪問し、21世紀の日本を思い描いて欲しい。

2011年7月1日金曜日

破壊と創造の人事(書評)

「日本の人事関連の本はなぜつまらないのか?」アメリカではそれこそ元サウスウエスト航空の人事部長が書いた「HR From the Heart」スタンフォード大教授のフェファーが書いた「隠れた人材価値」など実務家にとってとても面白く為になる本がたくさんある。

人材マネジメントの専門家として、この分野の魅力に取りつかれている私は、なぜ私にすら理解が困難な学術書か簡単なマニュアル本(面接の仕方や就業規則の作り方)ばかりが出版されているのか理解できなかった。そんな中、とても読みやすく、しかも中身の充実した人事の本が出た。楠田祐氏と大島由起子氏が書いた「破壊と創造の人事だ。

この本の魅力は、今の日本企業の人事が抱えている課題が全て網羅されている点。足で生の情報を愚直に収集し、人事業界で広範なネットワーク築いている楠田氏だからできた離れ業だと思う。解決策に関しては各社で話し合って決めていくべきだと思う、それこそが戦略人事だから。企業・競争戦略に合わせて、人材マネジメントを連動させていくのが戦略人事なので、各社が同じ打ち手になることは基本的にはない。

戦略人事の概念が日本に紹介されたのは、1990年代の後半だったと記憶するが、真の意味で日本の人事がビジネスパートナーになれているのだろうか?しかし、人事がビジネスパートナーに脱皮するには、人事がビジネスを理解するだけでなく、経営者も人事の重要性を理解する必要があると思う。経営者と人事のパートナーシップが求められている。経営者がお父さんで、人事部長はお母さん。2人が喧嘩していると、従業員(子供)は困る。

震災後の閉塞感に包まれる日本。この状況を打破する為に、ぜひ人事だけでなく、経営者にもこの本を読んでもらいたい。GEのジャックウェルチが言ったように「人事は経営者にとって最も大切な仕事」なのだから。


後談:ジャック・ウェルチは人事は牧師さんと教師のハイブリッドであるべきだと指摘していた。つまり、教会は理念・バリューの浸透、学校はクロトンビルでのリーダー育成。経営者は人事に期待することを明確化すべきだろう。

2011年6月27日月曜日

七夕の短冊と目標設定

どこにでもある郊外の大型スーパー。この前の日曜日の夕方、家族と一緒にショッピングに出かけたのだが、週末だけあって、多くの買い物客で混みあっていた。もうすぐ七夕なので、お約束のように、大きな笹飾りがレジの後に飾られていた。

人材育成担当は自分の夢や目標を設定し、紙に書き出すことが大好きな人種だ!もちろん、私もそのひとり。自分の夢や目標は財布に入れて常に持ち歩くことにしている。ハーバード大学のあるリサーチでは「明確な目標を設定している人」は3%もいないとのことらしいが、そういう意味では人材育成担当は特殊な人種だ。この前、ある人材育成担当者が集まる国際会議で「個人的に目標設定を定期的に行っている人は手をあげてください」の問いに、会場にいた人ほぼ全員(約200人)が一斉に手をあげた。

話を戻そう。笹飾りの短冊に自分の目標を書こうと思い、笹飾りに近づいた。すると、幾つかの短冊が笹から床に落ちていたので、それらを拾って笹に戻そうとした時、短冊に何が書かれているのかが見えた。そこに書かれていたのは「モデルになりたい」「サッカーがうまくなりたい」「幸せになりたい」などの夢だった。ほとんどの夢は漠然としていて、SMARTゴールになっていなかった。つい目標設定というとSMARTにしてしまう。

SMARTとは何かをおさらいすると、Specific(具体的)、Measurable(測定可能な)Achievable(達成可能な)Related(関連性のある)Time-bound(時間的に制約された)の最初の文字を取ったもので、企業研修で良く取り上げられる目標設定のやり方だ。

それでは、「サッカーがうまくなりたい」をSMARTにしてみるとどうなるだろう。「○×中学校のサッカーチームのフォワードとして、次の区民大会で5点をあげたい」これならより具体的で実現可能性が高まる。


ちなみにイチローの小学校の時に書いた作文は下記のようなものだった。よりSMARTに近いと思いませんか?


「僕の夢は一流のプロ野球選手になることです。そのためには、中学・高校で全国大会へ出て、活躍しなければなりません。活躍できるようになるためには、練習が必要です。1週間中、ともだちと遊べるのは、5~6時間です。そんなに、練習をやっているから、必ずプロ野球選手になれると思います。」

そもそもなぜ企業が目標設定・管理に力を入れるのか。その理由は幾つもある。たとえば社員間の処遇に差をつけるため(給与の公正な分配)、社員教育のため(目標達成に向けて努力することで社員の能力が高まる)、ビジョンや戦略と組織構成員の行動を連動させるため(組織としての一体感を保つため)など。しかし、私が考えるもっとも大きな理由は、目標を正しく設定すれば実現可能性が飛躍的に高まるからだ。

優秀なマネージャーはチームとそのチームメンバーの目標設定にとても力を入れる。難しすぎず、易しすぎない最適な目標をチームメンバーの個性や能力を見ながら設定するのは容易ではない。また、目標はチームメンバーがやる気をもって取り組めるものでなければならない。そして、目標は必ずSMARTにする。この目標設定が上手な組織は強い組織である。

私が短冊に何を書き込んだかは、みなさんの想像にお任せする。もちろんSMARTゴールになっている。

2011年6月25日土曜日

人事は喫煙コーナーに直行せよ

私の家の近くには2つの大きな企業がオフィスを構えている。1つは電機会社で、もう1社は大手通信系の会社だ。両社とも、私の自宅から駅に向かう途中の同じ通り沿いにある。この前の夕方、駅に向かって歩いていると、あることに気がついた。電機会社のビルの外の片隅で45人の男性がたむろして話をしている。話は結構盛り上がっているのが遠くからでもわかる、なぜなら大きな笑い声が聞こえるからだ。気付かれないように、自分の身を少し乗り出して確認してみると、やっぱり喫煙コーナーだ。私は人事として、この会社は業績が良いと、直観的に判断した。それは、喫煙コーナーの雰囲気が良いのは会社の業績が良い時が多いからだ。

ご存じのように喫煙コーナーで交わされる話は濃い。私はタバコを吸わないのだが、会社の健康状態を調べる為に、たまに缶コーヒーを持って、喫煙スペースに行って様々な部署の人たちと話し込んだものだ。すると、会社の現状や人事上の問題などの噂?がかなりの正確性で話されているのにいつも驚かされていた。しかも、喫煙スペースは部署を越えた人間関係を構築するにはもってこいの場所だ。人事はこうやって経営側の戦略だけでなく、現場の声を拾っていく必要がある。そうしなければ、魂が入っていない人事制度・施策を作ることになってしまう。

そんなことを考えながら、駅に向かってまた歩きだすと、左手に大手通信系の会社のビルが見えてきた。そのビルの前にも56人の男性がタバコを吸っている。しかし、さきほどの電機会社と違い、喫煙スペース(広いので喫煙コーナーとはもう呼べない!)は広めなので、みんなある程度離れて立っていて、誰も会話していない。ただ静かにタバコを吸っている。なんとももったいない話だ、折角の人材交流の機会を逃している。会社は喫煙スペースを上手に設計すべきなのに、と思った。喫煙コーナーは、一日に数回様々な部署の人が集まって話し合える、数少ない場なのだから。

しかし、喫煙コーナーには問題もある。まず、タバコを吸わない人はこの輪に入りづらい。さらに、健康的ではないし、女性にはまずうけない。先進的な企業は、この喫煙コーナーの代わりを作る努力をしている。一日数回、様々な部署の人が集まれるスペースが喫煙コーナーの他に作れるか?トイレ?いやトイレで過ごす時間は短すぎる。そう、それは休憩室なのだ。

グーグルには各フロアに数か所きれいな休憩室が設けられ、そこにはお菓子や飲み物が自由に取れるようになっていた。ここで様々な部署の人が集まり情報交換が行われていた。人間はやはり対面でのコミュニケーションで強く結びつき、言語化できないニュアンスや文脈を理解する。こういう組織環境を意識的に作りこんでいくことは組織活性化につながる。デジタルだけでなく、アナログのコミュニケーションもまだまだ大事なのだ。

2011年6月21日火曜日

使える英語

楽天やユニクロが社内の公用語を英語にすることが話題になってから、しばらく経った。日経ビジネスの最新号に「使える英語」という記事が載っていたので、読んでみた。日本経済がシュリンクしていく中で、海外(特に新興国)に活路を見出さなければ、日本経済の更なる発展は難しい、そしてそのために「使える英語」が必須なのだそうだ。

韓国も1997年の経済危機までは、日本と同じように英語後進国で内向きだったが、その後グローバルで戦うことを決意してから全てが変わった。今の韓国人は、日本、中国、インド、そしてアメリカの事情に精通している。韓国企業のサムスンやLG等ではTOEICのハイスコアを全社員に求めており、LGの新入社員のTOEIC平均点は900点なのだそうだ。韓国の20代~30代は猛烈に勉強している、その理由のひとつは韓国には終身雇用がないからだ。

私が韓国で聞いたところによると、企業は40代~50代の人材を解雇し、その代わりに人件費が安く、新技術に精通し、しかも英語ができる20代~30代の人材を雇用しているとのこと。40代~50代になって企業から解雇される人は、他の企業への再雇用が難しいので、多くの人がフランチャイズビジネス(他に何をしていいか分からない)をはじめるらしく、社会問題になっているらしい。徹底した市場原理が働いているのだ。確かに私がリーダーシップ研修を韓国で実施した際も、若い韓国人の英語力は高かったように思う。

しかし、私は英語力より、日本人の内向き思考と外への発信力(伝える意思)の弱さの方が問題だと思っている。自分の考えを堂々と発言できる度胸さえあれば、ブロークンな英語でもグローバルでやっていける。そうやって外国人とのコミュニケーションを続けていれば、自然に英語力もあがっていく。グーグルにいる時、いつも冗談で言っていたのが、日本人の新入社員全員は数か月間、インドで英語研修させればよい。その理由は3つある。1:コストが安い。2:新興市場のインドを肌で学べる。3:インド人の訛りの強い英語が理解できれば、アメリカ人の英語はとても簡単に感じられる。グローバル化を目指す日本企業も試してみれば良いと思う。「使える英語」は実践の中でしか身につかない。


後談:インドに詳しい友人によると、実際IHIは6週間のインド滞在集中研修を2010年に開設し、英語力・異文化理解力向上を目指して社員を派遣しているとのこと。素晴らしい取り組みですね。

傾聴力の威力

私の大学院時代の恩師にGeorge Milkovich教授がいる。彼はCompensationの権威で、Total RewardsCash以外に職場環境や学習機会なども報償の一部として捉える理論)を提唱した。彼はCompensationが大好きで、どこに行っても「給与系」の質問をすることで知られていた。たとえば、彼が彼の娘と一緒に新しいスーパーに行くと、いつも「ここの給与はどうなっているの?」と聞くので、娘が一緒に外出するのを嫌がるようになったとか。やはり、そこまでのオタクじゃないと、彼ほどの一流の学者になれないのだろう。

私も彼を見習って、タクシーや美容院では「質問」と「傾聴」を多用して、コミュニケーションスキルの練習をすることにしている。今日、美容師から面白い話を聞いた。美容師という人種はどこに行っても人の髪型が気になるそうだ。「数か月ぶりのボサボサの髪で美容院に行った私を許せないだろうな」と思いながらも、「傾聴」を続けた。そして、彼曰く、吉祥寺、新宿、青山など場所によって流行っている髪型が明らかに違うらしい。組織文化じゃなく、その土地の文化も確かにあるなと妙に感心した。さらに、その人が何を注意してみるか(どんなフィルターを持っているか)は、その人の職業や個性を反映しているんだなと感じた。会社の所在地の文化が会社に影響を与えることもあるだろう。トヨタの本社は愛知県、日産はもともと銀座。愚直なトヨタと洗練されているイメージの日産。大阪のパナソニックと品川のソニー。これらの会社で働いている人達の髪型や服装も違うのだろう。そのような角度から組織文化を分析してみるのも面白そうだと感じた。

2011年6月18日土曜日

新時代の差別化戦略

想像してください。どこにでもある、人通りもまばらな寂れた商店街の一角。普段は誰も意識せずに通り過ぎていく場所。私の家の近くにもそんな場所があります。しかし、この前、なぜかたくさんの人が並んでいた。「こんなところに何かあったかな?」。興味を持ったので、近づいてみると23坪ほどのスペースのパン屋さんがあることを発見した、その名も「ときどき」。

ときどきしか店を開けないパン屋さん。つぎにいつ開くかはパン屋さんの壁に貼られた紙を見るしかない。しかも、パン屋さんが開いていない時は、店の看板も中にしまってしまう。だから、私もこの場所を毎日のように歩いていても、今までパン屋さんがあるとは気が付かなかったのだ。パンの種類は6種類しかない。アンパン、クリームパン、オニオンパン、揚げパン、チョコもちパン、そして食パン。さらに、1人が買えるパンの個数に制限がある。価格は決して安くない、ひとつ180円~300円ほどで、駅やデパートにある大手チェーン店と変わらない。しかも、時間はオーナーが決めるので、オーナーにとっては自由度があるし、寂れた商店街の一角なのでテナント料も安い。

このパン屋を見ていると新時代の差別化戦略が見えてくる。一言で言えば、世の中と反対の方向へ動くこと、つまり常識の逆を行くことで目立っているのだ。1:営業時間短縮。ほとんどの店は客がこようがこまいが、機会損失を恐れて長時間、店を開けておく。顧客が便利なように、朝早く、夜遅くまで店を開くが、その分、余計に人件費や電気代などの店の維持費が掛かる。2:少量生産(わざと入手を困難にする)。普通は、たくさんの商品を買ってもらいたいので大量生産するが、そうすることで、売れ残りが出てしまう。また、いつでも商品を買えるので、特にスペシャル感がなく、口コミが発生しづらい。「ときどき」では商品はとても購入しづらいので、商品を手にした時に、なぜかとても嬉しく感じる。商品も必要以上に生産しないので、全部売り切ることができる。3:目立たない場所に店舗を構える。人通りの多い場所に店を構えるのがパン屋さんの常識だが、人にわざわざ足を運ばせる、リピーターを作ることで小規模ながらビジネスが成立している。

まとめると、売り上げはある一定規模をこえないが(あまり売りすぎるとスペシャル感がなくなる)、コストを徹底的に削減する(営業時間短縮、人件費削減、テナント料削減)ことで、大手以上の利益確保に成功しているのだ。このようなモデルをチェーン化すると、逆に日本のシャッター街が活性化すると思う今日この頃である。

2011年6月16日木曜日

ヨドバシカメラから見える世界

5年前に買った東芝のドラム式洗濯機が「ピーピー」という巨大な音とともに壊れた。うちには服を汚すのが仕事の小さな子供が2人いるので、早速、妻と近くのヨドバシカメラに洗濯機を買いに行った。うちはあまり家電量販店に行かない。特に洗濯機があるエリアはニーズがなければまずいかない。それはみんな同じか 笑)エレベータでヨドバシカメラの3階にあがった。そこで見た光景はほぼ5年前と一緒だった。パナソニック、東芝、日立、三洋の洗濯機が所狭しに並ぶ。でも違いが全く分からない、全部同じに見える。つまり、消費者の目から見て差別化できていない。この前買った時から5年も経ったのだから各洗濯機の機能はかなり進化しているのだろうけど、正直良く分からないのだ。

しかし、5年前と違う点が幾つかあった。1つ目は、中国メーカーのハイアールのドラム式洗濯機とローエンドの韓国のLGの洗濯機が売っていたこと。2つ目は、店内放送が中国語になったこと。3つ目は、日本メーカーの洗濯機には大きなシールが張ってあり、それが「日本製」と書いてあったこと。「おお、いよいよここまで来たか」と思った。

この状況は、196070年代に日本車がアメリカ市場を圧巻していった時とうりふたつなのだ。アメリカのビッグスリー(GM,フォード、クライスラー)は、Made in USAを強調し、アメリカ人消費者の心を引き留めようとしたが、結局、低コストと品質改善を武器に日本の自動車会社が最終的には勝利した。同じことがここ日本で起きないとは断言できない。もし、日本市場を死守できたとしても、新興国での競争に負けたら、スケールでいつかはやられる。その意味で、パナソニックが新卒採用の8割を外国人にすると宣言した理由も見えてくる。日本人の採用にこだわっている場合ではない。世界からベストの人材を採用し、有効活用すべき時代なのだ。

洗濯機の買い物が終わり、エスカレーターを下に降りていくと、シリコンバレーを代表する企業のひとつアップルのi-Podのセクションがドーンと見えた。オーディオセクションの一番目立つ位置をアップルが占めている、つまりアップルの製品が良く売れているのだろう。その裏にソニーの製品が少し寂しげに並んでいた。これは大きな変化だ。ソニーがウォークマンの世界的大成功で作りあげた携帯音楽市場を「自分のCDコレクションを持ち運べるウォークマン」というビジョンを掲げたアップルが奪ったのだ。これはビジョン競争だ。ソニーはiPod/iPhoneを超える製品のビジョンを作らなければ勝てない。これは漸進的改善の世界ではない、破壊的イノベーションの世界だ。

日本はシリコンバレーのイノベーションモデル(ハイエンド)と中国の低コストモデル(ローエンド)の間でサンドイッチにされて身動きが取れなくなっている。


後談:三洋電機が白物家電部門を中国のHaierに売却することになった。日本企業のグローバル化はまったなしだ。


2011年6月14日火曜日

システムから外れた生き方

今日は国民年金への切り替えの為に市役所へ行った。市役所の職員は私の退職証明書をちらっとみて、「また、すぐに厚生年金に切り替えされると思いますが、手続きは会社でやってくれるので何もしなくて大丈夫ですよ」と言った。内心、「いやー。独立したので、しばらく国民年金なんですよ」と思ったのだが。日本には会社(システム)を外れるという選択肢がないことを実感した。また、システム内にいれば、何も考えなくても自動運転で進んでいく。

システムの外に出て、はじめてシステム内部の動きが見えてくる。内部にいると、人の発言や行動もシステムの影響を回避することは難しい。新入社員もすぐその組織の色に染まる。しかし、既存のシステムが機能不全に陥った時、新しいシステムに変更しなければいけないのだが、既存のシステムに慣れているとそれをわざわざ変えるインセンティブは働きづらい。システムを変えるにはリーダーが必要だ。そして、自分の人生を生きる、つまり人と違うことをしなければリーダーとは呼べない。今ほどリーダーが求められている時代はない。

逆に、シリコンバレーは会社を辞めて起業するインセンティブが働いている。常に新しいことにチャレンジすることが奨励され、失敗に対してとても寛容だ。周りを見れば、ベンチャーを起こして一山あてた人がゴロゴロいる。お金を出してくれる投資家もいる。仮に起業がうまくいかなくても、次の採用面接ではチャレンジ精神を買われ評価対象になるのだ。私がシリコンバレーのパロアルトあたりの市役所に行ったら、「会社を設立されるのですね」と言われたんだろうなと想像する。

私がグーグルを退職した訳

グーグルを62日(私の39回目の誕生日)に退職し、コンサルタントとして独立した。

多くの友人や同僚は、なぜ私がこのタイミングでグーグルを退職するのかを、理解できなかった。
私も特に会社に不満があった訳ではない。毎日、アジア太平洋地域各国で楽しくリーダーシップ研修を教えていた。311日に東日本大震災が起きるまでは。

ちょうどこの震災の発生時、私はシリコンバレーに出張中だった。CNNニュースが繰り返し流す津波の映像を見ながら、人生の有限性を強く感じた。震災の翌日、グーグル本社の広大なキャンパスを1人で歩きながら、「自分のやりたいことは何?」「自分が貢献できることは何?」を自問し続けた。そして、グーグルを退職し、独立すべきだという結論に達した。その理由は、コーネル大学で学んだ人材マネジメント及び組織行動学の理論とGEやグーグルといったグローバル先進企業で得た実践知を多くの人に紹介することは意味のあること(世の中に役に立つ)ではないかと感じたからだ。

今その最初の一歩を踏み出したところ。

このブログは2つのテーマを扱う予定です。
1:私が日々考えていること・行っている活動を紹介する。
2:身の回りの出来事(日常の疑問)を人材マネジメント・組織行動学のフィルターを通して分析する。